AI画像の描き起こし外注は、採用済みの構図を参考に、人が線と塗りを新しく制作する選択肢です。元画像の画素やファイル情報を再利用しなければ、元画像に付いていた電子透かし(画素に埋め込まれる目に見えにくい印)や来歴メタデータ(作成や編集の経緯を記録した付加情報)は引き継がれません。ただし、新しい制作物であることと、既存作品の権利問題が解消することは別です。発注前に、制作工程、元画像の利用条件、譲渡される権利、納品仕様と日程をそろえます。
この記事は、取引先が用意したAI画像を受け取り、制作物に組み込んで納品する制作会社・デザイン事務所・フリーランス向けです。たとえば取引先の定例会でAI生成の構図が承認され、「これで進めてください」と決まります。手元に残るのは画像ファイル1枚で、どのサービスの、どんな参照画像から作られたのかは誰も答えられません。それでも入稿の締切は動きません。透かしや権利について何も言えないまま自分たちの名義で納品するのか、誰が決めるのか。判断に必要な材料を並べます。
手元に描き直せる人も時間もなく、再生成では承認をやり直すことになります。そこで検討したいのが外注ですが、外注しても確認作業がすべて終わるわけではありません。任せる範囲と、自分たちで決める範囲を整理してから見積を取ります。
描き起こし外注は必要か。4つの選択肢を比べる
描き起こしがいつも最善とは限りません。利用条件と掲載先の方針が分かっていて品質も足りるなら、AI利用を説明してそのまま使えます。構図が未確定なら、再生成で案を探すほうが早いこともあります。
| 選択肢 | 向いている場面 | 利点 | 残る確認 |
|---|---|---|---|
| そのまま使う | 使用条件と品質を確かめられた | 追加の制作費と日程が不要 | 元画像の透かしと来歴が残る、AI利用の説明、権利、媒体条件 |
| 自分たちで直す | 手を動かせる人と時間がある | 費用が外に出ず、細部を自分で直せる | 元画像を残した部分に透かしと来歴が残る、作業範囲 |
| AIで再生成する | 構図をまだ変えられる | 案を短時間で複数出せる | 全体の再承認、出力に付く透かしと来歴 |
| 人が全体を描き起こす | 承認済みの構図を保ちたい | 元画像の画素とファイル情報を使わず、透かしと来歴を引き継がない | 元画像の権利、仕様、譲渡、納期 |
自分たちで描き起こせるなら外注は必須ではありません。外注の意味は担当と時間の確保です。比べるときは制作費だけでなく、再承認の時間、担当者の試行、入稿の調整も含めます。
外注費と追加日程を誰が負担するかも先に決めます。取引先へ相談するなら、描き起こしを提案する理由と、そのまま使う場合に残る確認事項を並べて伝えます。自分たちで負担するなら、その前提を支払いと承認に関わる人へ共有します。
部分修正にするか迷う場合はAI画像の部分修正・再生成・描き起こしの選び方、そのまま納品する案の論点は取引先から受け取ったAI画像を使う前の確認にまとめています。
描き起こしで元画像の透かしはどうなるか
画素に入る印と、ファイルに添う記録は別です
電子透かしには、画像を構成する色の点である「画素」に、目では分かりにくい信号を埋め込む方式があります。Google DeepMindの「Identifying AI-generated images with SynthID」(2023年8月)によれば、SynthIDは画素へ透かしを埋め込み、画像加工やメタデータの消失後でも検出できるよう設計されています。
来歴メタデータは、いつ、どのような道具で作成・編集されたかを表す付加情報です。C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)はその記録方法を定める技術仕様で、仕様に沿って付く来歴情報はContent Credentials(C2PAマニフェストの一般向けの呼称)と呼ばれます。C2PA「C2PA and Content Credentials Explainer」2.4版(2026年9月確認)は、人・組織・AIによる編集を記録し、改ざんが分かる仕組みを説明しています。
透かしや来歴情報の付き方は、生成に使ったサービスや設定によって異なり、何も付かない場合もあります。見えるマークやファイル情報欄の記載がないだけでは、電子透かしの有無は分かりません。反対に、透かしや来歴が見つからないことも、人だけで制作した証明にはなりません。元画像がどのサービスのどの機能で作られたかを聞き、公表情報と生成AI画像の透かしと来歴情報に当たります。
元画像を素材として使わず、新しく描きます
ここでいう全体描き起こしは、元画像を完成データの部品として使う工程ではありません。透かしが画素へ埋め込まれる仕組みと、来歴がメタデータとして付く仕組みを理解した制作チームが、元画像を視覚的な参考として読み取り、線や塗りを人の手で新たに作ります。元画像の画素や背景・質感は流用しません。
この工程で作った新しい画像には、元画像の画素にあった透かしの信号を引き継ぐ元データがありません。来歴情報もコピーしないため、元画像の電子透かしとメタデータは引き継がれません。ただし前掲の技術資料は、透かしが画素に、来歴情報がファイルの付加情報として付くことを説明したもので、人が描き起こした場合の扱いは述べていません。ここでの結論は、その方式から導いた弊社の整理です。透かしを加工するのではなく、新しい作品を描く話です。なお、制作に使うソフトが新しい来歴を記録することはあり、完成ファイルにメタデータがないという意味ではありません。
「完全に描き起こす」という仕様は、背景や小物も含む画像全体を対象にします。手や文字だけを人が直し、ほかを元画像のまま残す作業とは区別します。画像の一部だけをAIで描き直すインペイント(ペイント機能)と来歴の関係は、インペイントで直した画像の透かしで扱っています。
外注先に確認する5つの点
外注先を比べるときは、価格表より先にこの5つを聞きます。
- どの範囲を、どの工程で人が新しく描くのか
- 扱う対象(イラスト調か写真調か、全体描き起こしか部分修正か)
- 納品時に譲渡される権利の範囲と、書面に書く内容
- 依頼した側の名義で納品できるか、預かった画像を無断掲載しない旨があるか
- 見積の返答がいつ来るか。納品データに何が記録されるか
答えが揃わないときは、日程より先に工程の説明を求めます。
説明できる工程を採用理由にします
透かしの除去をうたうツールがあっても、期待どおりに検出されなくなるとは限りません。来歴情報が見えなくなっても、画素の信号が残る場合があるためです。利用条件に反して表示や来歴を扱えば、契約上の問題になりえます。EUのAI規則(EU AI Act)第50条は、AIが生成した内容を機械可読な形で示し、判別できるようにする透明性義務を提供者などに定めています。欧州委員会の「Transparency obligations under Article 50 of the AI Act」(2026年7月更新)によれば、適用は2026年8月2日からです。日本国内の取引にそのまま適用されるとは限りませんが、表示や来歴をわざと取り除く行為は、この趣旨に反しうると考えられます。AI利用を隠して納品すれば、取引先への説明や信用の問題も残ります。
描き起こしは、検出器(AI生成かどうかを判定する道具)の判定や媒体審査の結果を保証しません。求めるのは、どの部分をどの工程で人が新しく描くのかという説明です。
承認済みの構図を保ったまま、全体を人が新しく描く工程へ切り替えたい場合は、AI画像を人の手で描き起こす「アトガキ」にご相談ください。元画像と用途、完成データを受け取りたい日を添えていただくと、作業範囲と日程をお返しします。
新しく描いた作品の権利と、元画像の権利を分ける
この章は一般的な整理であり、法的助言ではありません。個別の案件は、必要に応じて弁護士など専門家へ確認してください。
描き起こしても元の表現との関係は残ります
一般に著作権侵害では、既存の著作物を元にした関係である依拠性と、表現の類似性が問題になると整理されています。文化審議会著作権分科会法制度小委員会が2024年3月15日に取りまとめた「AIと著作権に関する考え方について」(文化庁サイト掲載)も、生成物の利用を類似性と依拠性から判断すると整理しています。新しい画素で描いたことだけでは、引き継いだ表現まで別物になりません。
たとえば承認済みのAI画像が既存のキャラクターの特徴的な表現を含むなら、その特徴を保って描いても問題は残りえます。元画像を用意した人へ参照画像と生成時の指示を聞き、気になる既存作品があれば見積時に隠さず伝えます。
画像検索で見つからないことも、侵害がない証明にはなりません。AI画像のトレースと著作権の確認を参考に、調べた範囲と不明点を書き残します。
譲渡する権利を書面にします
描き起こしで人の創作的な表現が生まれた場合、その著作権を誰が取得し、誰へ譲るかを合意します。制作費の支払いだけで当然に移ると扱わないようにします。
著作権法27条は翻案(元の作品の表現を作り替えて別の作品にすること)などに関する権利、28条は二次的著作物(元の作品を作り替えて作られた作品)を利用する際の原著作者の権利です。一般に、譲渡契約でこれらを特に記載しない場合、譲渡人に残ると推定されます(61条2項)。外注先から自分たちへ、自分たちから取引先へ、どの段階でも記載をそろえます。著作者人格権は譲渡できないため(59条)、行使しない旨の合意とは区別します。e-Gov法令検索「著作権法」(2026年9月確認)を参照してください。
書面で扱うのは、描き起こした作品に生じた権利です。元のAI画像や第三者の作品の権利まで移すものではありません。なお、生成AIの出力そのものに著作権が生じるかは人の創作的な寄与の有無で判断されると整理されており、元画像の権利を誰かが当然に持つとは限りません(AI生成ロゴに著作権は生まれない?)。単純な図形など、描けば必ず著作権が発生する保証にもなりません。
納品の名義と、実際の制作工程は別です。外注先の名前を出さずに納品できますが、それは「AIを使っていない」と説明できることではありません。
見積依頼に何を書くか。発注仕様のまとめ方
採用画像と参考資料を分けます
外注先に複数案を渡すなら、どれが採用済みの一枚か、ファイル名と版で指定し、決まったことと未確定のことを短くまとめます。気になる箇所へ印を付けた画像は元画像と分け、「右手と持ち物がつながっていない」のように場所と状態を書きます。全体描き起こしを希望していることも添えます。
見積のときに見た画像と、着手する画像がすり替わる。複数案を行き来した案件では、これが最後の落とし穴です。入金の前に版で一致を取ります。
| 項目 | 記載する内容 |
|---|---|
| 採用画像 | ファイル名、版、承認済みかどうか |
| 作業範囲 | 構図を保つ全体描き起こしなど |
| 保つ特徴 | 人物の配置、商品の大きさ、色の雰囲気 |
| 気になる箇所 | 線や形の不整合、正式な文字表記 |
| 用途・形式 | 使用先、寸法、入稿先の指定 |
| 日程 | 希望受領日、入稿日、公開日 |
| 元画像の経緯 | 生成サービス、参照画像、利用条件、不明点 |
| 確認窓口 | 要望をまとめる担当と、最終承認を得る相手 |
未確定の項目は、誰へ確認しているかも書きます。「雰囲気は納品を見て決める」状態では構図が決まったと言えないため、外注先の判断に委ねず、先に承認を取り直します。
納品形式と後続作業の担当を決めます
「編集できるデータ」だけでは、文字の配置、色の変更、看板への拡大など、何に使いたいかが伝わりません。形式と用途はセットで伝えます。ロゴなら、図案がベクター(拡大しても輪郭が粗くならない、点と線で図形を表すデータ)として扱える必要があるかも添えます。
完成素材の納品と、文字組み、入稿用データの作成、配信設定は別です。誰が最終レイアウトへ組み込み、誰が媒体の条件を見るかを決め、予定から落とさないようにします。
描き起こし外注の料金と納期はどう決まるか
見積を比べるときは、料金だけでなく、作業範囲、納品形式、支払いと修正の条件、返答までの時間を並べます。ここから先は一例として、アトガキの条件を示します。相場ではないため、他社の条件はそれぞれの見積でご確認ください。
| プラン | 内容 | 料金(税別) |
|---|---|---|
| S | アイコン・マーク | 9,800円 |
| M | ロゴ・イラスト1点 | 24,800円 |
| L | 複数要素・キービジュアル | 48,000円 |
| レタッチ | 手描きイラストの部分修正 | お見積り |
AI画像はイラスト調の全体描き起こしのみで、写真調とAI画像の部分修正は対象外です。納品はPNG・PSD・AIと、著作権譲渡に27条・28条を含み、著作者人格権を行使しない旨を記した発注書です。元画像が既存の作品に似ていると分かった場合はお断りします。ただし、すべての類似を見つけられるわけではありません。法的な調査を代行するサービスではありません。
返答日と納品日は別です
見積の返答は、営業時間内であれば当日中です。金額と納品日をあわせてお返しします。最短3営業日は、枠が空いていてSプランの場合のみです。一律に3営業日後という意味ではないため、取引先へは個別の返答を得てから日程を伝えます。
希望受領日は公開日より前に置きます。印刷物なら入稿日、その前に確認とレイアウト、その前に素材受領という順で、実際の締切から逆算します。
前払いと修正条件を共有します
アトガキの場合は、発注書、入金確認、着手の順で進みます。前払いで、着手後のキャンセルはお受けできません。修正はなく、明らかな不具合(瑕疵)のみ無償で対応します。納品を見てから別の構図へ変える進め方は前提にしません。前払いの有無や修正回数の扱いは外注先ごとに違うため、他社でもこの3点は書面で確かめ、支払いを処理する担当と画像を承認する担当の双方へ共有してください。
ご依頼いただいた方の名義で納品でき、弊社名は表に出しません。お預かりした画像は見積と制作以外に使いません。やり取りは窓口でまとめるため、取引先の連絡先と、実際に描く担当者の個人情報を互いへお渡しすることはありません。
発注前に確認するチェックリスト
発注前に一度で見直せる形にまとめました。
- そのまま使う・自分たちで直す・再生成と比べました
- 承認済みの画像の版と見積対象が一致しています
- 元画像の画素を再利用しない全体描き起こしか確かめました
- 元画像の参照元と権利の懸念を共有しています
- 著作権譲渡の対象と、取引先への引き渡し条件を確かめました
- 納品形式と後続作業の担当を決めています
- 希望受領日と返答された納品日を照らしました
- 前払い、修正なし、着手後キャンセル不可を共有しました
- 外注費と追加日程の負担を決めました
- AI利用を含む制作工程の説明を実態に合わせています
よくある質問
描き起こせばAI画像の透かしは引き継がれませんか
元画像の画素も来歴情報も流用せず、全体を新しく描く工程なら、元画像の電子透かしとメタデータは引き継がれません。ただし、新しい来歴の記録や、参照経緯の説明は別です。検出器の判定を保証する意味ではありません。
著作権譲渡込みなら、元画像の権利確認は不要ですか
必要です。譲渡するのは描き起こした作品に生じた権利で、第三者の作品を利用する許可まで得られるわけではありません。参照元や類似の懸念は着手前にお知らせください。
見積には何を送ればよいですか
元画像、生成サービス、用途、希望受領日と連絡先をお知らせください。添付はPNG・JPG・GIF・WebP・HEIC・SVG・AVIFで、1ファイル5MB未満・5枚まで、または転送URLです。未確定の条件はその旨を添えてください。
外注の相談では、採用画像と依頼メモを一緒にお送りいただくと、対応範囲・金額・納品日をお返しします。
